やみの学習帳

ただの勉強ノートです。指摘・レビューもご随意に。

行政法の勉強③

行政法学上の主要な概念

行政手続

理由の提示/理由付記

手続的規制の一つ。 行政庁が申請拒否処分または不利益処分をする場合には拒否の理由を申請者に提示しなければならないという定めのこと(行政手続法8条1項、14条1項)。 書面により処分を行う場合は理由の提示も書面でなされなければならない。 ただし、申請拒否処分に関して法令に定められた許認可等の要件等について客観的指標により適合しないことが明らかである場合にはその限りではない。

聴聞

手続的規制の一つ。 行政庁が不利益処分をしようとするとき、その名あて人となるべきものについて意見陳述のための手続きをとらなければならない(行政手続法13条1項)。 この手続のうち、処分の内容が重い場合に設けられる比較的厳格な手続を聴聞という。

審査基準

行政庁が、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる具体的基準のこと(行政手続法2条8号ロ)。 申請に対する処分についての手続的規制として、行政庁は審査基準を設定し公表する義務を負う(行政手続法5条1項)。

処分基準

行政庁が、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについて、その法令の定めに従って判断するために必要とされる基準のこと(行政手続法2条8号ハ)。 不利益処分に対する手続的規制として、行政庁は処分基準を設定し公表する努力義務を負う(行政手続法12条1項)。

違法な行政行為

瑕疵の治癒

瑕疵ある行政行為についてその成立時点では欠けていた要件・手続・形式等が事後に追完され瑕疵がなくなった場合に、行政行為を適法とみなすこと。 学説では、法治主義の原理から、瑕疵が軽微で第三者の既存利益が存在するときに限ってこれを許容する余地があるといわれる。

違法行為の転換

違法な行政行為の効力を別の適法な行政行為に該当するとして維持すること。 学説では、法治主義の原理から、違法行為の転換は限定的にのみ認められるべきであり、行政効率の要請と私人の権利利益の保護を慎重に比較衡量した上での判断が求められるといわれる。

違法性の継承

連続する複数の行政行為間で先行行為が違法であった場合に後行行為にその違法性が継承されること。 原則は違法性不継承であるが、先行行為が後行行為の準備行為に過ぎないような場合に例外的に違法性の継承が認められることがあり、救済範囲の拡大の効果がある。

行政裁量

行政行為が法令によって一義的に拘束されておらず行政庁に判断・選択の余地が認められること。 当該法令の趣旨が裁判所に行政庁の判断・選択を尊重させるために司法審査を宣言する趣旨であると解される時、行政裁量が認められる。

行政の実効性確保の手段

代執行

行政上の強制執行の手段の一つ。 行政上の代替的作為義務の不履行がある場合に、行政庁が自らまたは第三者によって義務者のなすべき行為をなし、 行政上必要な状態を実現し、その費用を義務者から徴収することをいう。 費用の不払いの場合、国税滞納処分の例による強制徴収が可能である。

直接強制

行政上の強制執行の手段の一つ。 行政上の義務の不履行がある場合に、行政自らが義務者の身体または財産に直接に実力を加え義務が履行されたのと同一の状態を実現する手段で、代執行以外のもの。 将来に向けた義務履行確保のために行われ、いかなる義務に対しても課すことが可能である。 ただし、人権侵害となる可能性があるのでその実施には慎重さが求められ、代執行中心主義のもとで直接強制は例外的な手段として位置づけられる。

課徴金

行政上の制裁の一つ。 行政上の義務の違反に対し金銭的制裁を課すもので、課徴金は法令が予定する以上の経済的利得を得たものからそれを剥奪するために徴収されるものである。 独占禁止法が定める不当な取引制限による利得の剥奪等がこれに当たる。

行政法の勉強②

行政法学上の主要な概念

行政組織

行政主体

行政活動を担当する法人。 国・都道府県および市町村は憲法において行政を行うことが認められていると解され、行政主体であることに疑いがない。 これらのほか、特別区独立行政法人国立大学法人地方独立行政法人もまた行政主体と考えられる。 特殊法人、地方公社、公共組合についてはいずれが行政主体にあたるかは議論のあるところである。

行政機関

行政主体に変わって行政活動を行う自然人又はその集合体を地位で捉えたもの。 行政機関が行政主体のためになし得る行為の範囲は明確に決定されている必要があり、 法律、条例または命令、規則、行政組織内の規範によって定められる。

行政庁

行政機関の権限の性質による分類の一つ。 行政主体としての意思や判断を決定し対外的に表示する権限を有するものを指す。 独任制行政機関、合議制行政機関のいずれでもあり得る。 地方公共団体の長や各省の大臣、公正取引委員会などがこれに該当する。

補助機関

行政機関の権限の性質による分類の一つ。 他の行政機関の権限行使を補助する権限を有するものを指す。 学説は主として独任制行政機関を想定しており、合議制行政機関である諮問機関や参与機関は補助機関と区別する。 各省の副大臣や副知事、会計管理者や職員等は法令により行政庁とされることもあるが、その権限の多くが補助機関としてのものである。

執行機関

行政機関の権限の性質による分類の一つ。 行政組織の外部に向けて行政の行為をする権限を有する。 執行機関は私人の身体や財産に対して実力を行使する権限を有し、行政主体の意思決定やその対外的表示の権限を有しない。 犯罪を抑止するときの警察官や、消防対象物を処分する消防吏員等。

行政の行為の原則

法律の留保の原則

一定の行政の行為には法律の根拠が必要とされるというもの。 法律の根拠とは、組織規範や規制規範とは区別される根拠規範であって法律に置かれたものを指す。 法律の留保の範囲には議論があり、侵害留保説や法規留保説、権力留保説等が挙げられる。

法律の法規創造力の原則

法規の定立は議会の専権に属し行政は原則として法規を定立できず、例外的に行政が法規を定立するには法律の委任が必要であるとする原則。 憲法は国会を国の唯一の立法機関としており、法律の法規創造力の原則を採用していると考えられる。

比例原則

達成されるべき目的とそのための手段との間に合理的な比例関係がなければならないというもの。 比例原則は、手段が目的達成のために必要最小限なものであることを要求する必要性の原則と、 選択された手段とその目的が均衡していることを要求する比例性の原則をその内容とする。

行政の行為の分類

法規命令

法規たる性質を有する行政制定規範。 その定立行為は、行政機関の一方的意思表示によって将来における私人に対する法効果の発生を予定するものであり、 行政の行為形式としてみると権力的抽象的法行為にあたる。 憲法73条は法規命令を想定していると解されることから、合憲性に異論はない。

行政規則

法規たる性質を有さない行政制定規範。 行政組織の内部で、当該行政規則を定める行政機関自身又は同一の行政主体に属する他の行政機関を名宛人として定められ、行政組織内部でのみ拘束力を有する。 行政規則が上級行政機関による訓令として定められるとき、下級行政機関に対する法的拘束力を見出すことができる。

行政行為

行政機関が一方的に私人の権利義務その他の法的地位を具体的に決定する行為。 行政行為は行政契約と異なり、私人間で用いられることがない行政上の法律関係に特有の行為形式である。 法律の留保の原則について権力留保説を取る場合、法律の根拠を要する行為。

行政契約

行政の行為形式の一つ。 行政主体を一方の当事者とする契約。 基本的に民法上の契約と同質のものだが、人権保障や行政作用の公正さの担保が必要とされることから、特有の法的規制を受ける。 非権力的法行為であり、法律の根拠を必ずしも要しない。

行政指導

行政の行為形式の一つ。 行政機関が行政目的を達成するために詩人に対してそれ自体法的拘束力なく任意の協力を求めるものである。 法令上、「行政指導」のほかにも勧告、指導、助言などの用語で表現される。 任意の協力を求める行為であることから非権力的事実行為であり、法律の根拠を必ずしも要しない。 ただし、行政手続法により一定の規制を受ける。

即時強制

行政の行為形式の一つ。 行政機関が私人の身体や財産に対し行政上の義務を賦課することなく実力を行使して行政上必要な状態を作り出すこと。 犯罪の制止や違法駐車のレッカー移動などがこれに当たり、権力的事実行為である。 即時強制を行う権限を有する行政機関は行政組織法上、執行機関と呼ばれる。

行政法の勉強①

行政の行為の分類

  • 内部的行為: (非権力的事実行為のみ)
  • 外部的行為
    • 法行為
      • 権力性あり
        • 抽象的: 法規命令
        • 具体的: 行政行為
      • 権力性なし
        • 抽象的: (想定されない)
        • 具体的: 行政契約(など?)
    • 事実行為
      • 権力性あり
        • 義務の不履行あり: 強制執行行為
        • 義務の不履行なし: 即時強制
      • 権力性なし: 行政指導

行政指導に関する判例と判旨

最判平成9・8・29(教科書検定

教科書検定において、条件付合格として特定の記述に対する改善意見を付した文部大臣の行為が違憲であるかが争点に含まれた。

  • 教科書検定では法的根拠を有し検定不合格とする根拠になりうる「修正意見」と、根拠を有しない「改善意見」が存在する。
    • 改善意見は行政指導である。
  • 本件で教科書著者は修正意見のみに従い、改善意見については最終的に従わなかった。
判決の要点
  • 最終的に著者が改善意見に従っていない
  • またその過程においても改善意見を強制した事実などもない

上記の点から強制力のあるものではなく、違憲ではないとした。 上記を満たせば違憲となる可能性があることが示唆されているが、一方のみで満たされるか両方を必要とするかはあきらかでない。