やみの学習帳

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刑法総論の勉強①

刑法総論の主要な概念

構成要件論

構成要件

刑法各則の条文に記述された、当罰的な行為態様を類型化したもの。

単に構成要件というときは、正犯の既遂を対象とする基本的構成要件を指し、共犯や未遂を対象とするものを修正された構成要件と呼ぶ。

構成要件に該当しない行為は、違法性や責任の判断の対象から外れ、処罰されない(罪刑法定主義的機能・保障機能)。

身分犯

刑法各則の条文に定める犯罪の主体の多くはすべての自然人であるが、

犯罪によっては主体に一定の属性を要求するものがあり、これを身分犯という。

例えば197条1項に定める収賄罪の構成要件は、公務員でなければ実現することができず、身分犯である。

他方、177条に定める強姦罪は男性を指す身分犯に思われるが、女性が男性を利用して実現することが可能な疑似身分犯である。

通説は身分犯を構成的身分犯と加減的身分犯に分類する。

結果

刑法においては2つの意味で用いられ、1つ目は行為客体の変化のことを指す。 この意味での結果を必要とする犯罪を結果犯、そうでない犯罪を挙動犯というが、実際には因果関係も要求されるため不正確である。 2つめは法益侵害を指し、実質的にすべての犯罪に要求されるもので、刑法学上はこちらの意味が重要である。

因果関係

処罰の対象となるふるまいと構成要件において要求される結果との間位に必要な関係のこと。 因果関係は、条件関係と相当因果関係の2つの因果関係で判断される。 条件関係は事実的・自然科学的な因果関係であり、相当因果関係は条件関係の存在を基礎として、当該条件関係が極めて異常なものでないかを考慮する因果関係である。

不作為犯

不作為により犯罪が実現される場合のこと。 不作為が処罰される明文の規定が存在するものを真正不作為犯とよび、保護責任者不保護罪などが該当する。 それ以外の明文の規定がない不作為犯を不真正不作為犯とよぶが、類推解釈に当たる・明確性の原則に反するといった批判がある。

違法性とその阻却

違法性

通説である客観的違法性論によれば、客観的事情に基づいて法規範に違反することであり、構成要件に該当する行為には違法性が推定される。

客観的違法性論の中でも、刑法の目的を法益保護に求め、法益侵害と危険の惹起を違法性の実質とする結果無価値論と、

社会倫理秩序の保護に求め、行為の規範逸脱性を違法性の実質とする行為無価値論とが存在する。

結果無価値・行為無価値二元論と結果無価値一元論には激しい対立がある。

違法性阻却

通説によれば構成要件に該当する行為は違法性が推定されることから、

違法性の判断とは実際には例外的に違法性を否定する事情の存在を判断することである。

このような事情を違法性阻却事由といい、正当行為・正当防衛・緊急避難・被害者の同意が代表的なものである。

正当行為

刑法35条に定める「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」とされる行為のこと。

法令の規定によって許容される法令行為と、正当な業務とみなされる正当業務行為がある。

具体例として、前者は警察官による逮捕監禁、後者には格闘技や医療行為が含まれる。

正当防衛

刑法36条1項に定める「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」とされる行為のこと。

正当防衛においては侵害から対比する義務がない点、防衛利益と侵害利益の厳格な利益衡量が要求されていない点で緊急避難とは性質を異にする。

相手方の不正の侵害に対する防衛行為であるという点から、緊急避難と比べて成立要件が緩和されている。

緊急避難

刑法37条1項に定める「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」とされる行為のこと。

緊急避難の成立には、他に危難を回避するために取りうる選択肢がなかったこと(避難行為の補充性)、および避難利益と侵害利益の衡量が求められる。

被害者の同意

被害者の有効な同意によって、行為の違法性が阻却されること。

結果無価値論の立場からは、被害者が保護すべき法益を放棄している、法益性の欠如の観点から説明される。

行為無価値論の立場からは、行為の社会相当性の判断要素として被害者の同意を含めて違法性阻却の可否を判断するとされる。

実質的違法性阻却

超法規的違法性阻却

明文の規定がない場合であっても、実質的観点から違法性が阻却されること。

結果無価値論の立場からは法益性の欠如または優越的利益の原理が、行為無価値論の立場からは社会相当性が違法性阻却の基準となる。

侵害された利益を自らの手で回復する自救行為が代表例であり肯定される余地があるが、最高裁判例に自救行為を肯定したものはない。

可罰的違法性

刑法には峻厳な制裁が予定されており、他の法領域において違法である行為や構成要件に該当する行為すべてを違法とするのではなく、

処罰に値する程度の違法性(可罰的違法性)の存在が要求されるという解釈。

他の公法上の違法行為であっても刑法上の違法としない(違法の相対性)、処罰に値しない極めて軽微な法益侵害を処罰しない(絶対的軽微)、といったものがある。